乳がん(にゅうがん、英: Breast cancer)は、乳房組織に発生する癌腫である。世界中でよく見られる癌で、西側諸国では女性のおよそ10%が一生涯の間に乳がん罹患する機会を有する。それゆえ、早期発見と効果的な治療法を達成すべく膨大な労力が費やされている。また乳がん女性患者のおよそ20%がこの疾患で死亡する。
乳がんに罹患するリスクは年齢と共に増加する。日本人女性の場合、罹患する確率は25人〜30人に1人(欧米は8〜10人に1人)である。男性も乳がんに罹患することがあるが、発生確率は1000人に1人である (sex and illness)。このリスクは色々異なった要因で変わってくる。家系によっては、乳がんは遺伝的家系的なリスクが強い家系が存在する。人種によっては乳がんリスクの高いグループが存在し、アジア系に比べてヨーロッパ系とアフリカ系は乳がんリスクが高い(breastcancer.org参照)。
シフトワークによる不規則な生活
喫煙については、日本人を対象とした研究(JPHC研究)では、閉経前の喫煙女性の乳がんリスクは、非喫煙者より3.9倍、受動喫煙だけなら2.6倍高くなる。閉経後の女性ではリスクの上昇はみられていない。[2]
年齢と共に乳がんの発生する確率は高まるが、若年齢で発生した乳がんは活動的である傾向が存在する。乳がんの一種の炎症性乳がん (Inflammatory Breast Cancer) は特に活動的で、若い女性に偏って発生し、初診時のステージがIIIbまたはIVであることが多い。この癌は他とは変わっていて、乳がんのしこりが無いこともしばしば見受けられ、マンモグラフィーや超音波検査で発見することが出来ない。乳腺炎 (Mastitis) のような乳房の炎症が症状として現れる。
病因 [編集]
2つの遺伝子、BRCA1とBRCA2は家族性の乳がんと関連している。この家系の女性でこれらの遺伝子が発現している者はそうでない女性に比べて乳がんに罹患するリスクが極めて高い。(p53遺伝子突然変異の)Li-Fraumenid症候群もまた同様で、全乳がん患者の5%にこの症候群が見られる。他の遺伝因子は乳がんでは散発的に見られるだけである。
検診 [編集]
30歳代から高齢の女性ほど罹患率が高い為、今日では多くの国で検診を受けることが推奨されている。検診には胸部自己診断法 (breast self-examination) とマンモグラフィー (mammography) も含まれる。いくつかの国では、壮老年女性の全員の毎年のマンモグラフィー検診が実施され、早期乳がんの発見に効果を挙げている。
この段階で施されるマンモグラフィーは早期乳がんを発見する為の選択肢のひとつであり、これひとつですべての年齢、すべての乳がんの、早期発見がカバーできるものではない。より一般的な方法として、超音波検査も併用することが有用と思われる。単に検診としてはMRIやCTなど、マンモグラフィーや超音波検査に比べて、不便な画像診断も存在する。CTは乳がんの検診にはあまり適しておらず、費用や検査時間など使い勝手の点でMRIも同様に検診には使い難い。
アメリカの低所得者層では医療サービスへのアクセスが十分でないため、乳がんの検診を受ける率が低く、結果として乳がんが診断された時に癌が進行している確率が高い。そのため、連邦政府は乳がん・子宮癌早期発見プログラムを1990年に創設し、低所得者のための無料検診を実施している。これを受けて州政府も州の財源を追加して乳がんの低所得者無料検診を拡大した。例えば、カリフォルニアでは増税したたばこ税を財源として、1年間に20万人弱の女性に無料検診を提供している。
検査 [編集]
壮老年女性の検診は増加しているのにも関わらず、多くの女性が乳がんに最初に気づくのは、かかりつけ開業医などが乳房のしこりを発見することである。
一般的な乳がんのスクリーニング検査としては、問診、触診、軟X線乳房撮影(マンモグラフィー)、超音波検査等が実施される。臨床的に疑いが生じると、乳房MRI検査および細胞診や生検が実施され病理学的診断により癌であるかどうか判別される。細胞診は多くの場合、超音波装置の誘導で腫瘍内に細い針を挿入し腫瘍細胞を採取する。生検にはいくつかの種類があるが、超音波ガイド下にやや太目の針を挿入して腫瘍の一部を採取する針生検が最もスタンダードである。細胞診や針生検で診断が困難な場合には、超音波またはマンモグラフィーを取る機械を用いたマンモトーム生検、MRI検査でしか描出できない多発乳がんなどの場合は、MRI検査をしながら生検を行うMRIガイド下乳腺生検が行われることもある。
病理医はふつう、腫瘍の組織型と、顕微鏡的なレベルの進行度合い(浸潤性であるか否か、など)を生検の報告に記述している。浸潤性乳がんの殆どは腺癌 (adenocarcinoma) であり、その中で最も普通の亜型は浸潤性乳管癌 (infiltrating ductal carcinoma ICD-O code 8500/3) である。他の亜型としては浸潤性小葉癌 (infiltrating lobular carcinoma ICD-O code 8520/3) などがある。稀に、腺癌以外の癌腫(や、癌腫以外の悪性腫瘍)がみられる。
診断が付くと、次は癌の病期の判定に移る。腫瘍の広がり具合と、浸潤や転移の有無を、病期判定の尺度とする。
病期 [編集]
乳がんの病期(ステージ)は腫瘍のサイズ、リンパ節への浸潤の有無、癌細胞の遠隔転移で決まってくる。乳がんサブタイプの炎症性乳がんの場合、乳腺炎が発症していると、自動的にステージIIIbかIVに分類される。浸潤・転移が疑われリスクが高い場合は、CTスキャン、核医薬画像化(シンチグラフィー)、胸部X線検査、血液検査等の追加の検査で、他の乳腺炎や原発巣から遠隔転移した二次癌の発見が試みられる。
腫瘍医はTMN分類で区分を簡潔に表現し、推奨される治療法を決定する。癌の病期を分類する一つの方法としてもTMN分類が使われる。TMNとはTumour(腫瘍)、Nodes(リンパ節)そしてMetastasis(転移)の頭文字を取りを短くしたものである。あるいはエストロゲン受容体 (estrogen receptor) 、HER2/neu癌遺伝子など生物学的要因もまた、治療を選択する上での要点となる。
硬癌
HER2/neuの過剰発現(免疫組織化学法)
治療 [編集]
乳がんの治療は原則的には外科療法であり、化学療法や放射線療法が併用されることも多い。
外科手術 [編集]
腫瘍のタイプと病期(ステージ)によって、乳腺腫瘤摘出(lumpectomy, しこりのみを摘出)か乳房を大きく切除する必要があるかが分かれる。日本ではlumpectomyを行うことは稀であり、腫瘍周囲に何センチかのマージンをつけて切除する乳房部分切除がスタンダードである。外科的に完全に乳房を切除する方法は乳房切除術 (mastectomy) と呼ばれる。
標準的な術式では、執刀医は手術で腫瘍を確実に切除できるように、腫瘍の周囲の正常組織を含めて組織を切除することで目的を達成する。組織切除に明確な余地が無いと、更なる切除手術が必要になる。場合によっては前部胸壁を覆う大胸筋 (pectoralis major muscle) の一部を切除することがある。
判断によっては、腋窩リンパ節も手術の際に切除(=廓清)される。過去においては、癌が広がらないように10〜40個もの広範囲に腋窩リンパ節が廓清され、術後合併症として切除した側と同側の腕に、リンパ系の広範囲のリンパ節に障害が及ぶことによってリンパ浮腫 (lymphedema) の発生がみられた。 近年ではセンチネルリンパ節生検 (sentinel lymph node biopsy) が普及しつつあり、リンパ節の廓清範囲が少なくなると、この術後合併症が減少する可能性がある。
化学・内分泌療法 [編集]
化学療法は、主に術前・術後の補助化学療法や進行・再発乳がんの治療に用いる。また乳がんはエストロゲン依存性であることが多いことからエストロゲン依存性の乳がんの場合、抗エストロゲン剤であるタモキシフェン、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール等)を用いる。
放射線療法 [編集]
現在乳がんに対する放射線治療には、局所再発の予防を目的とした術後照射と 転移および再発における症状緩和を目的とした照射がある。
分子標的治療 [編集]
病理検査でHER-2陽性の場合、化学療法に分子標的薬(例:トラスツズマブ)を加えた治療が行われる。
今日の乳がん治療は二年置きに開催される国際会議である、スイスのSt. Gallen(ザンクトガレン)で開催されるシンポジウムで議論され、そこでの議論は世界規模の研究の中心で実際に行われた結果に基づいている。病理区分(年齢、癌の種類、大きさ、転移)で患者を大きく高リスク群と低リスク群とに判別し、その後で施す治療の取扱い基準をそれぞれ違うものを施す。次に要点を示す。
乳房温存術(乳腺腫瘤摘出術、 乳房の四分の一切除)の場合に生じる、高い局所再発リスク(〜40%に発生)は胸部の放射線療法で減少する。
リンパ節に浸潤していた場合に生じる、高い癌死亡リスク(30〜80%)は全身療法(抗ホルモン療法あるいは化学療法)で減少する。
若い患者において最も有効な全身療法は化学療法である(最適なレジメンが選択されることが求められ、CMF、FAC、ACあるいはタキサンも使用される)。
壮老年の患者において最も有効な全身療法は抗ホルモン療法(タモキシフェンなど)である。
化学療法は患者の年齢が65才を越えると増加する。
エストロゲン受容体を持たない腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法は化学療法である。
エストロゲン受容体を持つ腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法はホルモン療法である。
幾つかの種類の腫瘍については全身療法は推奨されない。また、浸潤されたリンパ節が殆ど無い場合は、乳房切除術や放射線療法は推奨されない。進行乳がんには三つの治療(外科療法、放射線療法、化学療法)を組み合わせるのが良い結果をもたらす。(wikiより)